03:成果普及ワークショップ(食のキャラバン)

「郷土の植物再発見-食文化観光の開拓-」

平成24年度 総務省 戦略的情報通信研究開発推進制度(SCOPE)成果普及

「救荒植物」の研究をとおして、身近な郷土の植物の中から新たな食材の再発見が進んでいます。忘れられた食材も、調理法を工夫すれば現代的な味覚としてよみがえり、さらにはおもわぬ健康機能性が見出されたりします。

平成25年度には、県内6カ所にわたって、それぞれの地域ごとにこうした新食材となる植物をとりあげ、自生地の探索や採取、調理実食、さまざまな活用法の検討などを地元の方々と行うワークショップを連続的に開催しました。

さまざまな植物の魅力を極めることで地域の魅力を掘り起こし、それぞれの地域が植物をとおして繋がることで、やがて食文化観光という新たな価値の創造に発展することを夢見ています。

図は「備考草木圖」(天保年間、建部清庵)より

図は「備考草木圖」(天保年間、建部清庵)より

第1回 有用植物の新発見~歴史に学ぶ食文化観光

日時:5月23日(木) 9:30~15:00
場所:香北町谷相

20名を超す植物愛好家などが集まり、高知県の植物に関するエキスパート稲垣典年さんの指導のもと、谷相周辺の里山で、災害時食糧となる「救荒植物」の探索と採取を行いました。
谷相地区の集会所にて、救荒植物を使った郷土料理の実食や、江戸時代の料理本から再現した蒲焼もどきや花豆腐などの料理を楽しみました。
渡邊高志教授(高知工科大学地域連携機構・補完薬用資源学研究室)を講師に、高知に自生する様々な植物の活用例を学びました。

(>テキスト)

また、地元の大畠美都志さんからも、谷相の植物の魅力を語っていただきました。

渡邊先生の講演

渡邊先生の講演

第2回 高知のおふくろの味

日時:6月22日(土) 10:00~16:00
場所:草や(店舗:高知市鷹匠町)

会場となった「草や」は、旧家を活かした店舗と、約80種の有用植物が茂る庭が魅力です。

(>渡邊教授調査によるリスト)*1

今回は、33人の一般参加者が集まり、高知の有用植物を観て、食べて、学ぶという体験を共有しました。
渡邊教授による解説で庭の植物観察を行い、昼食は「草や」オリジナルのユキノシタ、ノカンゾウ、ホタルブクロ、ノダフジの花などを食材とする料理を味わいました。うちいくつかの調理法については、郷土料理の研究家で「草や」の創業者横山礼子さんと、その弟子で現経営者・料理長の和田典也さんから手ほどきをうけ、最後に、渡邊教授による高知の有用植物をめぐる講演で締めくくりました。

  • *1 ) 2020 / 4 / 21 リスト内に誤植があったため一部削除しました。

横山さんと和田さんの調理実演

横山さんと和田さんの調理実演

第3回 食べられる伝統工芸~和紙と里山の暮らし

日時:7月12日(金)11:30~16:00
場所:かみこや(高岡郡梼原町)

標高650Mの高台で、四国カルストの風を受け、四万十川の源流地である、梼原町大田戸の「かみこや」が第3回の会場でした。
今回は22人の一般参加者が集まり、有用植物を求めて里山を散策した後に、「たべられる和紙」の試食と講義を受け、和紙の新たな可能性を垣間みました。
調理は民宿「かみこや」を営む千賀子・アウテンボーガルトさんの地元食材と食べられる和紙をアレンジした、参加者全員が初めて口にする和紙料理でした。和紙の原料にはアップルミント、イタドリ、フキ、ミョウガ、ヨモギ、オランダガラシなどが使用されており、普段食べ慣れている海苔と違い、黄緑や深緑、赤茶や白といった色とりどりの色合いを楽しめました。
最後に、紙すき作家のロギール・アウテンボーガルトさんや渡邊教授などとともに、食べられる和紙についてディスカッションが行われ、今後の展開を期待する声を頂きました。

食べられる和紙をアレンジした料理

食べられる和紙をアレンジした料理

第4回 植物と大地~海辺で見られる救荒植物

日時:9月20日(金)11:00~16:00
場所:室戸市ジオパーク/ニューサンパレス室戸

4回目は室戸ジオパークを舞台に開催され、県内各地や地元から延べ70名を超える多数の方々に参加いただきました。
第1部は、ニューサンパレス室戸を会場に、まず、室戸ジオパーク推進協議会地理学術専門員の柚洞一央さんから、室戸の地形を形成した地球の動きや、その上に成り立った植生や、人々の生活文化の歴史を紹介いただきました。次いで、渡邊教授から「救荒植物」を現代の食材として再評価する意味について説明があり、さらに前高知学園短大教授の寺峰巧先生からラン科植物を中心とした室戸で見られる植物についてお話を聞きました。
昼食には、地元婦人会のみなさまにこの日のために用意いただいた、室戸の植物を活かしたお弁当を参加者一同で味わいました。
第2部では、お弁当で食した植物を探し、会場周辺から新村海岸にかけて、渡邊教授、寺峰先生、それに稲垣典年先生を植物ガイドに植物観察会を行いました。
さらに今回は夜の部として、渡邊教授のミニ講演会を行い、昼間に参加できなかった方のために室戸の植物のハイライトを再度紹介しました 。こちらも20名以上が参加され、熱心な質疑応答が行われました。

(>詳細レポート)

室戸の新村海岸で植物探索

室戸の新村海岸で植物探索

第5回 土佐のモーニングから始める食育

日時:10月20日(日)10:00~16:00
場所:土佐市/土佐市立波介小学校

食のキャラバン第5回目は、土佐市波介地区でイベントを開催しました。
第1部は波介山展望公園に繋がる横瀬ハイキングコースで、高山や大峠といった展望所を巡りながら秋の植物散策を行い、ヤマノイモやイヌビワといった秋の味覚を楽しみ、地元の食べられる植物について学びました。
第2部では会場を土佐市立波介小学校の調理実習室に移し、地元の野菜ソムリエと、西洋料理人としては四国で初めてとなる「現代の名工」に選ばれた島田和幸シェフと一緒に、子供たちも参加して、地元の食材や野草を使った「土佐のモーニングをつくる調理実習」を行いました。
モーニングを食した後に,第3部の講義では高知県立大学教授の渡邊浩幸先生と歯科医師の沖義一先生のお二人より、それぞれ栄養と歯の健康という観点から、食育の大切さについて学びました。

(>詳細レポート)

島田シェフによる調理指導

島田シェフによる調理指導

第6回 秋の味覚、土佐を飲む~山のフルーツと山茶

日時:11月23日(土)13:10~17:00
場所:高知市Art Zone 藁工

シリーズ最終回となる第6回は、NHKのドクターGにも出演している津田篤太郎医師と、高知に移住してシードバンク活動を提唱するジョン・ムーアさんの講演を中心に、高知市内のSeedz Organic Kitchenを借りてイベントを開催しました。
津田先生はJR東京総合病院で漢方専門外来も担当しています。講義では、気虚、気鬱、気逆などの漢方独特の体の状態把握と、その歪みを補正してバランスを取り戻すための植物を主成分とする漢方薬の効能について説明がありました。
ジョン・ムーアさんからは、月の満ち欠けと対応する植物の成長、太陽光のスペクトルと生き物との関わり、土壌のペーハーのバランスと微生物や植物の生態系など、自然の中で人の暮らしを見つめ直す話がありました。
講演の後は、Seedz Organic Kitchen料理人の大西昭人さんによる、シマサルナシやガマズミなどの山のフルーツを使ったタルトやスムージーなどを試食し、最後に渡邊高志先生が、これまで6回にわたる食のキャラバンの経過を紹介して締めくくりました。

今回の津田先生やムーアさんの話に共通して出てきた、「多様性の中でのバランス」ということは、一連の「食のキャラバン」の企画に通底するテーマでもあります。高知の植物の多様性を活かした豊かな食文化の再発見は、これからの地域の魅力づくりの鍵になることでしょう。

(>詳細レポート)

ジョン・ムーアさんの講演

ジョン・ムーアさんの講演