社会マネジメントシステム研究センター

新公共工事システム研究室

【室長 國島正彦教授退任により平成29年度末をもって終了】
高知の未来を見据え、高知の豊かな個性と創意工夫を活かせる公共工事システムの未来図を描く

高知に新たな公共工事システムを導入・普及し、地元中小建設会社の信頼と地域親和力の復権に取り組む

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高知県版;公共調達規則(試案)土木一式工事の一般条件

 一般社団法人四国クリエイト協会から公立大学法人高知工科大学が受託した寄付講座「安定成長・高齢化・人口減少時代における新たな公共事業執行システムに関する調査研究業務」{期間:2012(平成24)~2014(平成26)年度)の研究成果として「高知県版;公共調達規則(試案)土木一式工事の一般条件」条文・解説を起草しました。
 日本が右肩上がりで成長していた貧しい時代に、とても上手く機能していた公共工事システムは、1993(平成5)年度の大手ゼネコンスキャンダルを契機に少しずつ改革されてきました。 しかし、段階的取組みによる部分的最適化を幾度繰り返しても、結局は全体最悪に陥って閉塞感を払拭できないというのが公共工事を取り巻く建設業の現状だと思われます。高知の未来を見据え、地方の実態に整合する、全体最適といえる公共工事システムの全体像を示して社会実装する「社会システムのイノベーション(創新)」が必要な時期にきています。
 高知県の地元中小建設会社の健全な発展の見通しが立たないという問題に真正面から取り組むために、既存の公共工事の入札・契約制度見直しを目指す、高知の新たな公共工事システム研究会を、2012(平成24)年9月に設立しました。共謀や腐敗の排除を常に念頭に置きつつ、地元中小建設会社を企業評価する視点に、地域の社会・経済活動や自然災害対応への貢献等を考慮した地域親和力の概念を導入しました。地元中小建設会社の地域社会への貢献を十分に斟酌して、工事の価格以外の要素を的確に評価して落札者を決定できる土木一式工事の入札・契約システムの全体像を「高知県版;公共調達規則(試案)土木一式工事の一般条件」条文・解説として提示しました。
 高知の地方自治体の殆どの公共工事において、くじ引きで落札者が決定しているという現状を一刻も早く撲滅しなければ、地元中小建設会社の技術力と気概が“すんぐに※土佐弁1”疲弊して高知の建設業界が“ちゃがまる※土佐弁2”恐れがあります。

※1:すぐに ※2:壊れる

⇒「高知の新たな公共工事システムを求めて」(高知工科大学紀要Vol. 12, No.1, 2015)

高知の新たな公共工事システム研究会の再構築および目標、その達成度

(試案)に則って土木一式工事(試行工事)を実施(社会実装)して、(試案)の内容の妥当性の検証を、2015(平成27)年6月に再構築した高知の新たな公共工事システム研究会の目標としました。残念ながら、2017(平成29)年3月現在、試行工事(パイロット工事)を実施しようとする高知の公共工事発注者は出現していない状況です。
 研究会で様々な調査研究に取り組み、これまでに、以下に示すような成果を上げています。

(1) 地域親和力を考慮した地元中小建設会社の企業評価を、入札審査における加算方式の総合評価方式による落札者決定過程で実施する方法の立案。 
(2) 施工プロセスの実態が把握できる新しい書式の工事日報の開発、及び試験的運用。 
(3) 定置式クレーンの有無による工事現場の生産性及び安全性の比較分析。 
(4) 地域親和力の構成要素の策定:①若年技能者教育 ②若年技術者教育 ③技能者・技術者の社員雇用 ④建設機械の自社保有。

 

研究室長から

建設のプロジェクトマネジメント、公共調達制度、国際協力学に関する教育研究を25年間、東京を活動拠点として、国(国土交通省等)と政令指定都市、大手ゼネコン、大手建設コンサルタントの方々と大型土木工事を見据えて交流してきました。2012(平成24)年4月に高知工科大学に着任したおかげと言える最大の発見は、同じ建設会社といっても、従業員一人当たりの年間売上高が、重層下請施工する大手ゼネコンは1億数千万円、高知の自前施工する地元中小建設会社は2千万円前後と5倍以上の大差があり、両者のコスト・収益構造が著しく異なるということです。それにも関わらず、国・霞が関・大都市・大型工事を念頭に制度設計される公共工事システムは、両者の相違を考慮することが殆どできなかったのが実情です。高知県版;公共調達規則(試案)土木一式工事の一般条件に則った試行工事を見据えて、東京発では上手くできなかった、地元中小建設会社の実情に整合した新しい公共工事システムを高知で具現化して、より魅力ある地域建設業のモデル地域を発現させることを目指していますが、前途遼遠です(2017(平成29)年3月29日現在)。

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