スケールセンシティブという新概念を提案し、地域に立脚した産業と生活基盤の持続可能モデルを追究する
これまで地域情報化サイクル研究室として取り組んできた地域IX事業を踏まえ、再生可能エネルギーを軸とする地域電力網のモデル化も加味して、域内自律型の地域構造を探る。

社会に見られるスケールフリー性
社会に良く見られる構造に、スケールフリー(scale free)性という数学的な特性を持つものがあります。これはより大きな組織がより多くの対象を獲得するという普遍的な性質で、情報通信ネットワークやWEBのリンク関係、電力網、はたまた人間の知り合い関係にも存在することが広く知られるようになってきています。
これは経済で考えると、国内では東京への一極集中、世界では「〜メジャー」と呼ばれる一部の企業がマーケットを独占する構造に当てはまります。すなわち、多くの産業が水平に統合され、巨大企業にならないと継続性を持ちえないことを示しています。
地域の目線では、このスケールフリー性が社会維持に大変な困難を持ち込むと考えることも出来ます。地域で価値を創造し、地域が自立・自律して行くためには、このスケールフリー性と異なるモデルによる社会構造が必要なのです。
スケールセンシティブへの挑戦
人工言語理論で、文脈のある/なしを context sensitive/free と呼びます。これにならって、スケールフリーの対極となる概念、すなわち地域向きの社会構造を表す性質をスケールセンシティブ(scale sensitive)と命名しました。
スケールセンシティブな構造の特徴は、経済性やQoL(quality of life)と言った社会の指標が、必ずしも規模とは連動しないことを意味しています。それぞれの最適な規模が、地域社会の規模と同程度に落ち着くような構造を示す概念です。
この構造を実現するためには、従来の価値の概念を変えていく必要があります。均質な要素が大量にあることを良しとするような経済指標が必ずしもQoLとは相関がないということを見極めることにより「個々の地域やコミュニティに準拠した生産活動や役務活動の方が品質は高いのである」というような概念を広めることが重要と考えています。
本研究室では、スケールセンシティブな地域産業、特に再生可能エネルギーを軸とした電力ネットワークや情報通信ネットワークなどを題材に研究を進め、地域が活力を取り戻すための産業を構想・実装することを目指します。さらにこれらの成果を本学で始める新しい学問「里山工学」に反映していきます。
研究室長から
これまで、いくつもの地域の幸せ度を示す指標が発表されています。地方もそれなりに幸せだぞと言いたいのでしょうが、どうも地方の得点が高くなるようにものさしを作っているように思えます。それでは真の地方のあり方を議論することができません。もっと客観性の高い、地方で感じる幸せの本質は何かを突き詰めないと正しいものさしは出来ないでしょう。
別の話をしましょう。送電網が発達する以前は、電力会社は地域の地元の企業でした。商用インターネットの黎明期には地域ごとにインターネットサービスプロバイダが雨後の筍のように出来たものです。しかし、どちらも寡占化が進んでしまいました。なぜでしょう。地域の会社では商売ができないのでしょうか。 インターネット、電力事業、そして地域での生活、これらはどれも大変私には魅力的に感じます。その本質は自分の必要なことを自分で行うからだと思うようになりました。必要なモノやサービスを自分で作る、自分だけで作れないなら知人と作る、それでも出来ないならコミュニティで作る。生活におけるこの成分が大きいほど楽しく愉快に過ごせるように思うのです。
この概念を数理的に表現することは出来ないか、この概念で地域の新しい産業モデルを創出出来ないか。本研究室では地域志向型の通信事業と再生可能エネルギー事業とを大学発ベンチャーとして起業し、実践を通じた構成的なアプローチで次世代の地域を探ってます。
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