人材育成:梼原町ワークショップ「植物資源の有効活用」

梼原町ワークショップ:第1回

日 時:2010年10月23日(土) 9:00~12:00(第1部) 14:00~17:10(第2部)

場 所:維新の森(第1部) 梼原町役場会議室(第2部)

 

[プログラム]

<第1部>植物観察会

9:00~  梼原の植物について、高知工科大学地域連携機構・補完薬用資源学研究室室長・渡邊高志准教授が解説
12:00

<第2部>ワークショップ

14:00  講演:高知の有用資源植物について 高知工科大学地域連携機構・補完薬用資源学研究室室長・渡邊高志准教授

15:00  対談:ロギール・アウテンボーガルト氏(梼原在住の和紙作家)×渡邊准教授

16:00  参加者討論

 

高知県で地域の活性化を考える場合、豊富な植物資源を活かしたサプリメント、化粧品などの製品開発や、森林バイオマスの有効活用、あるいは多様な植生そのものを観光と結びつけるような総合的な植物資源戦略が有効と考えられます。そのためには、自治体職員や地域住民が、植物学や地域経営の専門家の協力を得て、日頃は見過ごしている様々な植物の生態やその有用性について正しく認識し、保全や活用法について自ら考え出す力を養うことが重要です。
梼原町ワークショップでは「植物資源の有効活用」をテーマに、野外観察会や植物を原料とする軟膏の製作などの体験を通して植物資源の価値を地元が再認識することをねらいとしました。
第一回の参加者は、梼原町行政関係2名、地元植物愛好家などの住民4名、遠く種子島から参加した植物研究者、工科大関係者など、総計17名でした。

龍馬の森の植物観察会で地元住民に解説する渡邊先生(左)

龍馬の森の植物観察会で地元住民に解説する渡邊先生(左)

午前の第一部では、梼原町龍馬の森と呼ばれる植物生態系を保全した地区を全員で散策し、道端の様々な植物について、渡邊准教授と、医薬基盤研究所・薬用植物資源研究センター(種子島)の杉村康司先生から、名前や見分け方、さらには食用・薬用などの利用法について詳しく解説をしていただきました。3時間足らずの散策で、優に30種類近くの有用植物が見出されること自体が、かなり植物には詳しい地元の参加者にとっても驚きでした。

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午後の第二部は梼原町役場の会議室に場所を移し、まず渡邊先生から、午前の観察を踏まえて、そもそも薬用植物とは何かということ、そして健康食品、化粧品、薬品などとして実際に製品化されている様々な事例を紹介いただきました。さらには香北町での小規模なハーブティーの商品化の試みなども紹介され、高知県は多くの有用植物が未利用のまま眠っている潜在資源の宝庫であることが強調されました。

梼原町役場の会議室にて講演を行う渡邊先生

梼原町役場の会議室にて講演を行う渡邊先生

次に、梼原の山の中で、紙漉き工房と民宿を営むオランダ人のロギール・アウテンボーガルトさんから、ご自身が30年前にたった一枚の和紙の魅力に惹かれて日本に住み着いたいきさつや、こうぞやみつまたなどの和紙原料を自ら栽培し、さらに様々な植物による紙づくりに取り組んでいることについて語っていただきました。

 ロギールさんの話を受けて、渡邊先生の司会で、参加者も加わって梼原におけるさらに様々な植物の利用法などについての議論が行われました。渡邊先生のヒマラヤでの経験からすると、 環境の厳しい場所に生育している植物、例えば、乾燥した砂漠、太陽の光が強く冷水などが湧き出る山地などの植物はストレスにさらされている分、 高い生理活性を有するものが多く、梼原のカルスト山地の中でもそのような有用植物が見出される可能性が高いとのこと。また、植物の活性を評価する上では、古くからの食経験が文書として伝わっていることが決定的に重要であり、地元の古文書の掘り起こしも大事であるとの指摘がありました。

おりしもCOP10では、遺伝資源の保全と平等な利益配分をめぐって先進国と途上国との間で議論が繰り広げられましたが、梼原の多様な植物資源のワイズ・ユースを考えることは、実はわが国でも最先端のテーマとなっているのです。

和紙の材料を示しながら語るロギールさん

和紙の材料を示しながら語るロギールさん

梼原町ワークショップ:第2回

日 時:2010年11月18日(木)17:00~20:00

場 所:梼原地域活力センター「ゆすはら夢未来館」調理室

 

[プログラム]

「染料植物を使った軟膏作り-実習と解説」
熊本大学薬学部薬用資源エコフロンティアセンター 矢原正治センター長

 

今回のワークショップは熊本大学薬学部の矢原正治准教授を講師にお招きし、染料にも使われる薬用植物を使った軟膏づくりを参加者全員で体験するとともに、漢方医薬についての解説を聞かせていただきました。 会場はゆすはら夢未来館の調理室を借り、参加者は地元行政・住民など7名、工科大関係者など含め総計17名でした。

実習で製作したのは、やけど、しもやけ、切り傷などに用いられる「紫雲膏」と、ニキビや湿疹などによるかゆみ止めに良いと云われている「中黄膏」の二種類です。 紫雲膏では本来ムラサキという染料植物とトウキが使われますが、ムラサキは希少植物でもあるため今回はこれに近い薬効をもつ軟紫根を用いました。また、中黄膏にはオウバクとウコンの粉末が植物由来の薬用素材として使われました。

土鍋でゴマ油を熱し蜜蝋を溶かして軟膏の基材とします。左から2人目が矢原先生

土鍋でゴマ油を熱し蜜蝋を溶かして軟膏の基材とします。左から2人目が矢原先生

いずれも基剤となるのは食用のゴマ油を加熱し蜜蝋を加えたもので、土鍋でゴマ油を140℃に保って1時間ほど加熱すると部屋中天ぷら屋の匂いに包まれます。1時間も熱するのは水分を抜くためとのこと。
中黄膏の場合は、蜜蝋を溶かした後に100℃まで下げてからオウバク末とウコン末を加えてよく混ぜます。冷めてペースト状になったところでへらを使って容器に取り分ければ出来上がり。
紫雲膏の場合は、さらした蜜蝋を溶かしさらにラードを加え、140℃を維持したままトウキを加えて20分間トウキの成分を抽出します。トウキのカスを除いてから次に軟紫根を同様に15分間抽出し、カスを除いて100℃に冷ましてから容器に流し込みます。容器の中で冷めて固化して出来上がり。

軟紫根の乾燥したものを加えると紫雲膏らしい色に染まります

軟紫根の乾燥したものを加えると紫雲膏らしい色に染まります

加熱や抽出に時間はかかったものの手順としては意外に単純で、また、軟膏の基剤が実はゴマ油と蜜蝋というのにもいささか拍子抜けしましたが、自然の素材を組み合わせる中から実際に効く薬をつくり上げてきた古来漢方の知恵の奥深さもあらためて感じることができました。ただ、残念ながら今回製作した軟膏は薬事法の規制によって、自家用以外の配布・販売はできないそうです。

矢原先生によると、植物でもショウガやワサビのように刺激のあるものには、強い抗菌性を持つものが多く、だから薬としても使われるとのこと。カレーの黄色はウコンによるものですが、ほかにも薬効性のスパイスがいっぱい入ったカレーなぞは、まさに薬そのものというのが矢原先生の弁。ちなみに、ウコンには忘年会シーズンはとくに世話になる機会も増えますが、ウコンの飲みすぎはあまり良くないそうです。

溶けた紫雲膏を容器に流し込み、固まれば完成

溶けた紫雲膏を容器に流し込み、固まれば完成

梼原町ワークショップ:第3回

日 時:2010年11月20日(土)14:00~17:00

場 所:梼原町役場会議室(工科大地域連携機構とTV会議)

 

[プログラム]

14:00  講演「農と環境と健康」北里大学副学長・陽捷行教授

16:00  参加者討論

前回から中一日おいての三回目では、北里大学副学長で土壌の専門家である陽捷行(みなみかつゆき)教授をお招きし、「農と環境と健康」と題して講演をいただき、現代文明によって損なわれてきた農と環境と健康を取り戻すため、梼原ではどのような取り組みが可能かを参加者が討論しました。

陽先生は、東北大学大学院農学研究科博士課程を修了後、農林省に入り、2005年に(独)農業環境技術研究所理事長を退任し北里大学に移るまで、わが国の農林行政をリードしてこられました。環境保全型農業という考え方を早い時期から提唱し、また最近では農医連携という概念を提起し、国内外で実践しています。

四国カルストを訪れた講演者の陽先生

四国カルストを訪れた講演者の陽先生

長年の経験からまず指摘されたのは、現代の科学技術文明が様々な局面において「分離の病」を患っているということ。本来、ヒトと外界との間、人と社会の間、あるいは土壌と大気の間など様々な境界のあり方を考えることは重要であるにも関わらず、科学技術は知の細分化を進め、知と知が分離し、さらには知と情、知と行(行動)においても乖離を深めているというのです。

そこで、「農」に代表される農・林・漁業などの人の営みと、健康というものを、環境というプラットフォームの上で、あらためて統合的にとらえ直すために農医連携という考え方が重要となってきます。陽先生は、古代ギリシャの医師ヒポクラテスの「食べ物について知らない人が、どうして人の病気について理解できようか。」という言葉を引用し、これを自身の主張として「食べ物は、水と土壌と大気成分からなる。水と土壌と大気を知らない人がどうして病気について理解できようか。」とおきかえ、食と環境と健康との密接な関係を指摘しました。

陽先生の講演を聞く地元参加者のみなさん

陽先生の講演を聞く地元参加者のみなさん

とかく、土壌については環境としての重要さが見落とされがちですが、土の健康と人の健康とは、例えば過剰肥料は過剰栄養に相当するなど比喩的によく似たところがあります。地球の窒素循環では、元来、大気中の窒素は根粒菌やソテツなどの一部の植物によって土壌に固定されるものでしたが、100年ほど前に工業的に窒素を固定し窒素肥料とする方法が発明され、循環のサイクルが大きく変化しました。いわば食料増産という恩恵と引き換えに、土壌には過剰栄養によるメタボ化という慢性的な不健康を強いるようになってきたとも言えます。さらに、地球温暖化の主因は石油をエネルギー源とする工業由来のCO2の急増とされることが多いのですが、実は、農業に由来するCH4やN2Oもこの100年でCO2と同様の急増を示し、温暖化に加担しているものと考えられます。

TV会議システムで工科大とも接続

TV会議システムで工科大とも接続

このような地球規模の環境問題を乗り越えるためには、経済発展至上の考え方を捨て、土壌に対しても倫理規範をもって接するなどの、新しい精神性の地平を切り拓いていくことが求められます。

最後に、農医連携の具体例として、患者自身が農作業にも参加し、育てた食べ物を病院食として提供するというタイ国での実例などが紹介されました。

梼原では既に森林セラピーなどの環境と健康を結びつけた取り組みが、医療関係者、行政、住民などによって進められています。参加者からは、陽先生が提起する新しい時代の価値観にもとづく農医連携は、梼原でも独自のモデルを開拓していくことが十分に可能であるとの感想が語られました。

陽先生(左)と司会の渡邊先生

陽先生(左)と司会の渡邊先生

梼原町ワークショップ:第4回

日 時:2011年1月19日(水)13:30~16:00

場 所:梼原町役場会議室-工科大会議室(TV会議)

 

[プログラム]

13:30  講演「オーストリアのギュッシングに学ぶバイオエネルギーの地域づくり」
高知工科大学社会マネジメント研究所・永野正朗助手

15:00  参加者討論

 

2日前に降った雪の残る梼原の会場と工科大地域連携機構をTV会議システムで結んでワークショップを行いました。講師には工科大社会マネジメント研究所の永野正朗助手をお招きし、一昨年のオーストリア・ギュッシングの視察調査にもとづくバイオエネルギー活用の事例を詳しく紹介いただきました。さわりの部分は黒潮町ワークショップでも岡村助教が紹介していますが、今回はとくに梼原が進めている木質ペレットの生産ということも踏まえて、ギュッシング・モデルから梼原が具体的に何を学べるかということを話していただきました。
参加者は、梼原側では町の環境推進課や森林組合などから6名、工科大から永野助手、松村教授、渡邊准教授など6名。TV会議の工科大側は菊池教授、永野教授、岡村助教が参加しました。

梼原の雪景色

梼原の雪景色

ギュッシングは人口4千人で、これは梼原とほぼ同じです。ここは、1990年までは産業基盤もなく出稼ぎに依存するオーストリアでも最も貧しい地域でした。1980年代末頃から、地元の議員や若者を中心にこの状況を変えようという試みが始まります。着目したのは、地域の45%を占める森林資源が未利用であること。その一方、エネルギー費用においては市の年間財政規模が900万ユーロという中で、実に620万ユーロもの電力と熱とを域外から購入しているという点でした。1992年に、ピーター・バダシュ氏が市長に就任し、脱化石燃料を旗印に、域内の再生可能エネルギーを総動員して地元で分散的に生産・利用する活動が本格化しました。

スライドで説明する永野先生(左)と梼原町関係者

スライドで説明する永野先生(左)と梼原町関係者

地域暖房供給プラントを小規模から始めて徐々に拡大しつつ、2001年にはウィーン工科大学のヘルマン・ホフバウア教授との共同で、バイオマスガス化の新技術を使った電力と熱の供給プラントを建設します。その後、次々と最新技術を導入してプラントを建設し、2009年現在では、域外からのエネルギー購入費用をゼロにしたばかりか余剰電力を売電し、年間470万ユーロもの純利益を上げるにいたっています。その他にも、先端企業がこぞってこの地に進出し、あらたな雇用も創出されるなど、地域経済は劇的に改善されました。

今では、バイオマスや太陽エネルギーなどの30以上のプラントや企業の研究施設などが集積し、ヨーロッパの再生可能エネルギーの一大センターとして世界各地からの視察もあいついでいます。永野先生には、そのようなプラントの実例も多くのスライドによって紹介いただきました。

ギュッシングの木質バイオマスガス化プラント

ギュッシングの木質バイオマスガス化プラント

事例紹介につづいての参加者討論では、まず、梼原の行政担当者から、ギュッシングの成功事例は自分たちにとって大きな励みになるとの感想が語られました。さらに討論を進める中で、木質燃料の灰が、欧州諸国では肥料として畑や森林に散布できるのに対し、わが国では産業廃棄物扱いにしかならないという、制度の違いが浮き彫りとなりました。
しかし、そもそも廃棄物処理法律が制定された1970年には、木質燃料によるエネルギー生産などということは全く想定されていなかったはずですし、2000年の循環型社会形成推進基本法以降も未だそのような想定は無いように思われます。
それゆえ、新しい技術にもとづく地域再生のような課題については、地方から積極的に発信して制度を変えていくことも必要ではないかという意見も交わされました。

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梼原町ワークショップ:まとめ

日 時:2011年1月23日(水)13:30~16:10

場 所:梼原町役場会議室

 

[プログラム]

13:30  梼原町ワークショップの総括および今後のアクションプランについて

 

 

昨年10月から4回にわたって行ってきた梼原町ワークショップの経緯について、工科大からあらためて梼原町長に総括報告を行うとともに、これまでの実践からあらたに構想された植物資源活用のアクションプランについて提案し、その可能性などを議論しました。

町側の出席者は、矢野富夫町長、吉田尚人副町長、中越修総務課長、大崎光雄環境推進課長、久岡俊彦総務課員の5名で、工科大からはプロジェクト代表である中田愼介地域連携センター長以下、渡邊高志准教授、岡村健志助教など5名が出席しました。

地元木材資源を活かした梼原町役場の外観

地元木材資源を活かした梼原町役場の外観

最初に、工科大よりあらためて人材育成プロジェクトのねらいと、梼原における過去4回のワークショップの経緯ならびに黒潮町でのワークショップ経緯を報告し、次いで渡邊准教授から、梼原の植物資源活用に向けた市民参加型講座の構想について提案が行われました。この講座は、薬用資源植物を栽培したり、健康食品や和漢ハーブなどの商品として加工するといった体験ができるとともに、地域固有の植物資源を観光や商品開発などのビジネスにつなげていくための考え方も学ぶことができるというものです。

町役場エントランスホール

町役場エントランスホール

矢野町長からは、平成23年度から始まる梼原町の第6次総合振興10カ年計画の構想が示されました。その中でも強調されたのは、新しい時代変化に柔軟に取り組めるよう、ものの考え方からあらためていかねばならないこと、そしてそれを担うべき人材の育成に力を入れていかねばならないということです。人が資本であるという梼原町が掲げるビジョンは、地域連携機構が今回のワークショップでも追及してきた地域活性化の方向性ともよく合致しています。

中田教授からは、このビジョンを今後どのような事業に落とし込んでいくのかということを具体的に検討すべきとコメントがあり、大学と地域との協働を持続することが提案されました。

右側梼原町長以下幹部と左側工科大メンバー

右側梼原町長以下幹部と左側工科大メンバー

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