ハイテク選果機

先端工学で一次産業を支援

先端工学と一次産業の交差点

現代の社会経済が成り立つには、「規格」というものが基本になります。たとえば、工業部品は厳密に規格が決められているからこそ高度な集積が可能となり、最終製品も品質が一定であるがゆえに商品として成り立ちます。農林水産業でも市場の流通が成立するためには、一定の幅の規格と、それに合わせる選別が重要になります。

ところが、自然の産物は工業製品とは異なりもともと均質ではないため、選別には常にあいまいさが伴います。そのため、選別作業を自動化しようと思えば、実はコンピュータによる知的認識システムというハイテクを投入する必要があるのです。

地域連携機構・知的認識システム開発研究室の竹田史章教授は、人間の脳神経メカニズムをコンピュータ上でまねるニューラルネットワークというシステムをもとに様々な応用技術を開発してきました。その中で、滝のように流れる米粒を瞬時に判別して不良粒をピンポイントのエアジェットで吹き飛ばす「米の監査システム」や、いりこを階段状のベルトコンベアーで一匹ずつに分離して最後に画像認識で仕分けする「いりこ自動選別システム」など、高知県の一次産業に貢献する成果をいくつも生み出してきました。
ここでは、ハイテクと一次産業の組み合わせの一例として、最新成果であるピーマンの自動選別機をご紹介します。

ピーマン自動選別機のシステム外観

ピーマン自動選別機のシステム外観

ピーマンの自動選別機

ピーマンは、出荷量が全国3位という、高知を代表する野菜のひとつです。ブランドを維持するために規格等級が細かく定められ、出荷に際しては手間のかかる選別が行われています。

赤ピーマンの等級比較表

赤ピーマンの等級比較表

しかし、人間の目で規格表と見比べながら選別をするのは作業負担が大きいだけでなく、等級境界上の判別には人間的なばらつきが避けられません(野球の審判のストライクゾーンが微妙にブレるのと同じです)。そこで、作業負担の軽減と、正確で安定した判別を行うことを目的に、これまでの研究室の蓄積を活かしたピーマン自動選別機を開発することにしました。

搬送メカニズムの部分には、いりこ選別機で開発してきた階段式ベルトコンベアーの技術が活かされています。

ステッピングモーターとセンサーの組み合わせにより、V字に配置されたベルトの前後動が繰り返され、山積みにされたピーマンが徐々に一つずつに分けられて画像認識セクションに送り込まれます。

搬送部のベルトコンベア

搬送部のベルトコンベア

画像認識セクションには、表面が光るモノでも識別できるといったこれまでの研究開発でつちかわれた知的認識システムのノウハウに加えて、さらなる新工夫がほどこされています。それは立体の多面同時計測ということです。ピーマンのような複雑な形状を瞬時に全体像としてとらえるのは人間の認識のすぐれた点でもありますが、これをコンピュータに代行させるためには、一方向からの画像では不十分で、同時に6方向から撮影してそれらを総合した画像認識を行う必要があります。そのために、画像認識のソフトウェアを改良しました。また、撮像には低価格のWEBカメラを用いることで、コストを低く抑えました。

ところで、立体撮影のためにはピーマンを中空に浮かす必要があるわけですが、どうやっているのでしょうか。

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上の図でお分かりのようにテグスが使われています。

答えが分かってみれば単純な工夫なのですが、低コストでしかもメンテナンスが容易であるという点で現場での実用性を強く意識した設計となっています。

2009年11月に完成した実験機では、ピーマンを一個に分離して画像認識セクションまで送り込む成功確率は75%程度、また、ピーマンの大きさ、かたち、数ミリ以下の小さな傷を認識する成功率は85%程度であることが確認できています。 この実験機を用いて実験と解析を繰り返し行うことで様々な課題をリストアップし、搬送機構や撮像機構さらに画像認識ソフトウェアの改良を行うことで、実用に耐える性能を持つ実証機の開発に現在取り組んでいます。

成長するマシン

このピーマン自動選別機は、高知県内のメーカーが製作して売り出す計画が進行中です。

実はこのマシンにはニューラルネットワーク・システムならではの驚くべき性能があります。それは、答えの例をコンピュータに示すことにより、自ら繰り返し学習することで認識精度が上がっていくということです。これまでに竹田教授が手がけて製品化してきた紙幣の識別システムでも、数種類の紙幣の判別を繰り返すうちにどんどん精度が向上していくことが実証されています。

このマシンの、学習による成長が可能という特長は、ピーマン以外の農作物にもただちに応用が可能であることを示しています。 また、もし機械メーカーなどで個々のユーザーの識別結果をデータベースとして累積していくようなビジネスモデルを考えるなら、学習機能によって識別性能を自動的に向上させることにより、ユーザー全体が精度向上のメリットを共有できるようにもなります。さらにこのような自動選果機が普及していくと、厳密な等級分けをクリアーした青果物にはより一層高い市場競争力が付加されていくことも予想されます。

一次産業と先端工学とを組み合わせることで、新しい産業の形が見えてくるといってもよいでしょう。