グリーンエネルギープロジェクト in 高知

2015(平成27)年1月27日、宿毛市の平田工業団地にて(株)グリーンエネルギー研究所による、木質バイオマス発電所と木質ペレット製造工場の併設プラントの竣工式が行われました。

動画

このプラントは2011年に描かれたコンセプト図が出発点となっています。

ge_scenario

以下は、これまでの経緯です。

第1章 プロジェクトの出発点

高知県の森林バイオマスを有効活用するという研究は、本学の永野正展教授や那須清吾教授などを中心に2007年ごろから進められていました。木材を砕いてペレットに整形し、これをハウス栽培で用いられている暖房ボイラーの、重油に代わる燃料源とするというものです(詳細は「新エネルギー革命」参照)。
2009年4月に地域連携機構が発足し、地域貢献のキーコンセプトを「一次産業×科学技術×マネジメント=地域の活性化」としました。活動のひとつの柱に植物資源戦略を掲げ、森林バイオマスの活用についても引き続き研究が行われてきました。
2011年3月11日、巨大地震と津波により原発崩壊の危惧が現実のものとなり、この日を境に世界のエネルギー政策の方向が大きく変わりました。
本学でも、佐久間健人学長からの指示により、大学キャンパスのグリーン・エネルギー化に関する提案が永野教授によって急遽まとめられ、刊行間際の大学紀要に「『グリーン・エネルギー プロジェクトin高知』推進のシナリオ」と題して追加掲載されました。

「グリーン・エネルギー プロジェクトin高知」推進のシナリオ

要約:本稿では、高知県における豊富な森林資源を背景に、火力発電、排熱利用、および固形燃料生産を複合した木質バイオマス・エネルギープラントの提案を行う。このプラントは、燃料造林の考え方に基づき木質バイオマスを火力発電に用い、余熱をフル活用し、さらに重油を代替するペレット燃料を製造するもので、アグロフォレストリーによる林床の有効活用や、電力・余熱とペレット燃料によるハウス園芸の植物工場的な高度化など、高知県の一次産業の構造改善にもつながる。環境的価値も含む総合的な経済合理性という観点から、木質バイオマスが再生可能エネルギーの主力となり得ることを示す。そして、高知工科大学の電気・熱需要をこのエネルギープラントによってまかない、さらに太陽光・小水力発電なども加えて100% の再生エネルギー自給を目指すことを提起する。(⇒本文)

その後の検討を踏まえ、10月の本学理事会において、佐久間学長から前記シナリオの骨子が報告され、プロジェクトの本格的な推進が了承されました。

第2章 ヨーロッパの実情

森林バイオマスの活用に関しては、ヨーロッパが先進地域です。
本学では社会マネジメントシステム研究センターの永野正朗助手が、欧米のバイオマス利用の実態をこれまでにも詳しく調べてきています。
2011年11月24日から12月2日にかけて、さらに最新の情報を得るために、地域連携機構の岡村健志コーディネータとともに、フィンランドとオーストリアの2カ国の調査を行いました。以下ではそのダイジェストをご紹介します。

ヨーロッパで進むバイオマス利用

永野正朗・岡村健志

欧州における木質バイオマスの利用は、薪、チップ、ペレット燃料などを使ったエネルギー変換効率の高い熱利用を中心に家庭、地域、産業レベルの各層で広がり続けています。近年ではエネルギー変換技術の進展に伴い、数百kW~二千kW程度の比較的小規模な木質バイオマス発電と発電過程で発生する排熱を有効活用し地域暖房などのエネルギーとして利活用するケースも増えています。

今回我々は、木質バイオマス利用の先進地域である欧州のなかでも特に森林の地形的条件が日本に近いオーストリアと森林率世界第一位であるフィンランドにおける木質バイオマスエネルギーの利活用状況について調査を行いました。ここでは木質バイオマスを使い熱と電気を生産しているプラントの概要について紹介したいと思います。

オーストリアの町では-Abtenau(AUSTRIA)

アブテナウ(Abtenau)はユネスコ世界遺産にも登録されている歴史的建造物が並ぶ旧市街で有名な古都ザルツブルクの南東およそ35kmに位置する人口6千人弱の小さな高原町です。

2004年、この小さな町に木質バイオマス資源を活用する熱と電力を同時に生産・供給することのできるCHPプラント(Combined Heat and Power Plant)が建設されました。このCHPプラントの隣には木質ペレット製造工場と製材工場が立地しており、これらのプラントで利用される森林資源はすべて地域内から供給されています。

まず地域の林業組合により伐採された木材のうち、良質な丸太は製材工場へ運ばれ製材加工処理されます。その時発生するオガ屑やプレナー屑などの製材屑は、隣接する木質ペレット工場に木質ペレットの原料として購入されます。一方、伐採時に発生する枝葉や梢端・根元部などの林業残渣はチップ化された後、CHPプラントに運搬され発電用(及び熱製造用)の燃料として利用されています。また曲材などの質の悪い丸太については積雪の影響で原料が運べず燃料が不足した時などのために貯蔵されています。燃料の大部分はトウヒが使用されていました。

発電用の燃料となる枝葉等のチップはプラントの外に1ヵ月程野積みされた後、ホイールローダーでバンカーに投入されます。この時、燃料チップの含水率は平均で40-55%程度(ウェットベース)と非常に高い状態ですが、ボイラに投入される前に一旦乾燥工程を通るため安定した燃焼が可能となっています。

このプラントではオーガニック・ランキンサイクル(ORC :Organic Rankin Cycle)というシリコンオイルなどの有機媒体を用いた蒸気タービン発電技術を導入しており、1,100kWの発電出力に加え、隣接する木質ペレット工場、製材工場、アブテナウの町にそれぞれ温水を供給しています。

このCHPプラントでは2名の作業員が従事しており、1名はシステムの改良・改善点について専門的見地よりチェックを行い本社に報告を行う役目、もう1名は原料の受取り、計量、サンプル採取、リフトで燃料の投入を行う作業を担っています。オーストリアでは水蒸気タービン発電システムの場合は法律上24時間誰かが管理している必要があり、またその担当者は試験を受け認可を受ける必要がありますが、ORC発電の場合、社員は8時間のみの勤務で特に試験などはないため夜間や週末などは基本的に無人で稼働することとなっています。

隣接する木質ペレット工場では、1時間当り7-8トンの木質ペレットを製造可能な造粒機が2台設置されており、製材工場から運ばれてきた原料とCHPプラントから供給される乾燥用熱源としての温水を利用して年間約4万2千トンの木質ペレットが製造されています。また製材工場には木材の乾燥機が10機設置されており、その乾燥用熱源としてCHPプラントから供給される熱(温水)を利用しています。さらにアブテナウの町には約6kmの地域暖房供給網が整備されており、CHPプラントから買い付けた温水を地域の熱供給事業者が暖房用として供給を行っています。

アプテナウにおける森林資源の利用フロー

アプテナウにおける森林資源の利用フロー

このようにアブテナウの森林資源は根元から枝葉まで余すことなくすべて有効利用されており、森林所有者は育てた木のすべてから収入を得ることができるようになっています。一方で育てられた森林資源は、製材品、木質ペレット燃料、熱エネルギー(乾燥用、暖房用)、電気と様々な形態に姿を変えながら地域の人々の暮らしを支えています。

 

フィンランドの町では-Renko(FINLAND)

フィンランドの首都ヘルシンキから約90kmほど北上したRenkoという小さな町にFinforest社の製材工場があります。ここでは製材工場で発生する樹皮や質の低い製材残渣、地域の林業残渣などを製材工場敷地内に建設されたCHPプラントで利用しています。

このCHPプラントではバイオグレートという燃焼炉を使用しており、最大で65%の含水率(ウェットベース)の燃料を使用することが可能となっていることから、屋外に野積みにされた燃料チップは非常に湿った状態でした。ちなみにここで使用されている燃料はほとんどがマツ類とのことです。この施設では樹皮チップは多く使っているものの、枝葉チップは使用していないようでした。

この施設ではおよそ1.5MWの電気を水蒸気タービン方式で発電しており、そのために1時間当りおよそ15m3のチップ燃料が消費されています。また、発電時に発生する排熱は回収され、115℃程度の温水として製材工場の乾燥用にのみ使用されています。そのため夏季休暇で製材工場が数週間稼働しておらず乾燥用の熱供給が必要ない時期にCHPプラントのメンテナンスを行っているようです。

このプラントの運転は基本的に自動化されているため、オペレーターとして1名の作業員が日々のメンテナンスチェックや燃料投入などの作業を行っている一方、1日の残りの半分は製材所で働いているようです。夜間や休日などは自動運転のため出勤する必要はなく、もしトラブルなどが発生した場合は作業員の携帯電話に連絡が届く仕組みとなっています。

燃焼炉で発生した灰(bottom ash)や集塵機で回収された燃焼灰(fly ash)はすべて自動的に灰コンテナに回収されます。フィンランドでは、建築廃材などを燃料として使用していないため重金属類や危険な化学物質をほとんど含んでいないこれらの灰は、土壌改良材として森林に蒔くことが可能です。しかし、近年はEC(European Commission)により化学物質などの非常に厳密で複雑な認証機関による成分調査について法律が制定され、これに手続き上多大な労力と時間がかかるため、土壌改良材として販売するよりも埋め立てを行うほうがコストや労力的に容易となるケースも多いようです。

この規模のCHPプラントとしては、非常にコンパクトな設計となっており、面積約700m2程度(高さ20m程度)のなかにボイラ室やオペレーター室、発電室などが機能的に配置されています。また建物の外に出るとCHPプラント内からの騒音はほとんどありませんでした。

 

アブテナウ風景

アブテナウ風景

 

 

ペレットプラントの外観

ペレットプラントの外観

 

 

発電用燃料

発電用燃料

 

 

燃焼炉

燃焼炉

 

 

発電出力モニター。1162.1KWを表示している

発電出力モニター。1162.1KWを表示している

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

製材工場外観

製材工場外観

 

オペレーター室

オペレーター室

  

発電所内観

発電所内観

 

 

発電所外観

発電所外観

第3章 株式会社グリーンエネルギー研究所が発足

2012年7月、高知工科大学発の環境ベンチャー事業として「株式会社グリーンエネルギー研究所」が設立されました。

同社は、高知県内において林地残材や製材端材などの木質バイオマスを主燃料とする火力発電所の2014(平成26)年度中の本格稼働を目指し、年間約3,600万kWhの発電を行うとともに、排熱を活用した木質ペレット製造販売などの事業を行います。

事業の概要は図に示すとおりです。

GEPJ_Lab_concept

本事業では、地域の未利用木質バイオマス資源を活用したバイオマスCHP事業(Combined Heat and Power:熱電併給)並びに発電時に発生する排熱を活用した固形燃料(木質ペレット)の製造販売事業を組み合わせることで高いエネルギー利用効率と事業採算性を実現し、再生可能エネルギー供給拠点となることを目指します。

これによって、全国一の森林率を誇る高知県の、原料供給―加工・発電―消費の全段階の連携による電気・熱エネルギーの地産地消と域際収支の改善、雇用の創出、林業・山村の活性化に資する新しい産業クラスターの中核として、地域の産業・経済・くらしの変革と高度化に貢献することを目指します。

1. 新会社設立の背景

東日本大震災に伴う原発事故の発生以降、安心・安全なエネルギーに対する社会のニーズは確実に高まってきました。そんななか、自然エネルギーを活用した再生可能エネルギー発電事業に注目が集まり、この7月1日には再生可能エネルギーの固定価格全量買い取り制度がスタートしていますが、木質バイオマス発電は風力、小水力、太陽光といった再生可能エネルギー発電事業のなかでも天候等の条件に左右されず出力をコントロールすることが可能な点において特に安定した発電量を見込むことが可能な発電事業です。

また、高知県では全国に先駆け地球環境に優しい木質バイオマス燃料の利用拡大を政策的に進めてきました。その結果、現在では年間五千トンを超える木質ペレット燃料が県内の施設園芸農家や養鰻・温浴施設・製紙・酒造業等多様な分野で利用されるようになっています。

本年度から推進されている第二期高知県産業振興計画でも木質バイオマス燃料の更なる利用拡大が明記されており、化石燃料に代替する木質ペレットの需要は着実に拡大すると見込まれています。

株式会社グリーンネルギー研究所は、高知工科大学でのこれまでの研究成果をベースに、木質バイオマス発電と木質ペレット製造を組み合わせた全国に例のない新たなビジネスモデルによる高効率エネルギー事業を大学発ベンチャー事業として立ち上げ、地域の産業・経済・暮らしを支える地域貢献に加え全国展開を視野に入れた安心・安全な再生可能エネルギーサービス事業としての発展を目指しています。

2. 新会社の事業概要

株式会社グリーンエネルギー研究所は、地域における再生可能なエネルギー資源を用いて、電力、木質燃料(固体・液体・粉体など)の研究開発及び製造・販売事業を通じて、「地域経済・産業への貢献」・「環境保全への貢献」を図り地域社会の持続的発展に貢献します。

(1) 木質ペレット燃料製造事業

株式会社グリーンエネルギー研究所は地域の森林資源を活用し、木質バイオマス発電との組み合わせによる高いエネルギー利用効率を実現することで、競争力を持った高品質な木質ペレットを製造し、熱エネルギー分野における化石燃料の代替利用を促進し、県際収支の改善に貢献するとともに地域産業への安定的なエネルギー供給を実現し、CO2排出削減に加え地域経済の発展に寄与することができるものと考えています。

(2) 木質バイオマスCHP(熱電併給)事業

通常、木質バイオマスを主原料とする発電では最大30%程度の発電効率しか得ることができませんが、本事業では木質ペレット製造事業と組み合わせることで発電時に発生する排熱の有効活用を行い、総合的なエネルギー利用効率を高め、環境負荷の低減を実現するとともに高い事業性を確立します。本発電事業では、これまで用材として利用されずに捨てられてきた未利用木材部位や樹皮、製材廃材などを原料とすることで、木質ペレット製造と併せ木材の多段階(カスケード)利用の基礎的分野を担うとともに電気・熱エネルギーの地産地消に貢献できるものと考えています。

会社概要

商号     株式会社グリーン・エネルギー研究所

本社所在地  高知県高知市重倉266番2

事業所所在地 高知県宿毛市平田町戸内字扇3661番55
       (高知西南中核工業団地内)

設立時期   2012年7月中旬

資本金    設立時5,100万円(設立後2億円まで増資予定)

従業員数   事業稼働時 約30名

主な事業内容 バイオマス発電事業(発電規模 約4千kW)

木質バイオマス燃料製造事業(事業開始時2千t予定) 等

 

 

 

Exif_JPEG_PICTURE

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

pics0014

第4章 宿毛市のグリーンエネルギープラント建設開始

2014年1月20日、宿毛市平田町の工業団地の一区画で、グリーンエネルギー研究所によるグリーンエネルギープラントの起工式が行われました。

このプラントは、火力発電所と木質ペレット製造工場を併設し、全国に先駆けて木質バイオマスによるグリーンエネルギープロセスの本格的な実用化をめざすものです。

ここでは、着々と進む建設の様子を写真でご紹介します。

plant_location

タービン・発電機の基礎工事 2014/2/12 撮影 火力発電タービン・発電機の設置部分の基礎となります。

タービン・発電機の基礎工事
2014/2/12 撮影
火力発電タービン・発電機の設置部分の基礎となります。

ボイラー基礎工事 2014/2/18 撮影 ボイラー設置部分の基礎となります。

ボイラー基礎工事
2014/2/18 撮影
ボイラー設置部分の基礎となります。

ペレット棟基礎工事 2014/3/3 撮影 この上に木質ペレット製造工場が建てられます。

ペレット棟基礎工事
2014/3/3 撮影
この上に木質ペレット製造工場が建てられます。

140303_turbine_structure

タービン・発電機地上部基礎鉄筋
2014/3/3 撮影
ここの2階部分にタービンと発電機が設置されます。

 

ペレット棟 2014/6/20 撮影 鉄骨建方完了し屋根も半分取り付け完了

ペレット棟
2014/6/20 撮影
鉄骨建方完了し屋根も半分取り付け完了

140620_boiler_tower

ボイラー棟
2014/6/20 撮影
ドラムの据え付けが完了