社会マネジメント

高知工科大学発の新しい学問体系

工科大発の新学問

社会マネジメント・システム学とは、高知工科大で生まれた新しい学問体系です。これまでの学問がどちらかといえば狭い専門領域に細分化し、現実社会の課題から乖離してきたのに対して、むしろ諸学を統合することで現実社会の課題解決を第一に目指すところにその特長があります。 2004(平成16)年に文科省の21世紀COE(重要な研究拠点と認められ重点投資が行われる仕組み)に採択され、本格的な研究がスタートしました。2006(平成18)年には国際学会も発足し、広がりを見せています。2008(平成20)年度に開設された本学マネジメント学部もこの社会マネジメント・システム学が基礎となっています。
ではその学問的な方法とはどのようなものなのでしょうか。

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図は、現実の社会的ニーズの平面と、様々な科学的要素技術の平面との間に、マネジメントの平面が位置することを示しています。

社会的ニーズの平面の複雑な連鎖

「風が吹けば桶屋が儲かる」というたとえがありますが、世の中の事象は思わぬ連鎖で複雑に繋がりあっています。そこでは、全ての人間の活動が研究対象になり得ますが、当面は「社会基盤」「建設」「行政」「企業」「環境」「地域活性」の6要素に関わる事象に重点を置いています。

たとえば、芸西村で実際に行われている取り組みを例に考えてみましょう。それは、ハウス栽培での収入向上を図るため重油に替わる木質ペレットによる加温システムを導入するというものです。設備投資にかかる費用をどのくらいの期間で回収できるかは、ボイラーの普及にともなう機器価格の低下、行政による補助金の有無、国際的な石油価格の変動、木質ペレットの大量供給システムの成否、あるいは環境負荷に対する税制、国際競争にともなう生産物価格そのものの変動等々、実に様々な要因によって変わってきます。
社会マネジメント・システム学の第一歩は、まずこのような複雑な事象の連鎖を関係図として記述するところから始まります。参与観察やヒアリングなどを通して、表面的には見えにくい伝統や慣習など、人の行動に影響を及ぼす要因も拾い出します。

科学的方法を動員する要素技術の平面

次に、事象の繋がりの一つ一つについて、インプット量に対するアウトプット量を実証的に明らかにしていきます。たとえば、投入した燃料代に見合う温度上昇は何度で、それによる収穫量の向上は何キロで、最終的な販売増収はいくらかというようなことです。その際、分野を問わず使えそうな方法であれば、ありとあらゆる学問の最新成果を動員することも社会マネジメント・システム学の特長です。前の頁図の中に示した「量子ゲーム理論」などは極めて新しい領域ですが、従来の古典的なゲーム理論の解とは異なる利他的な共存共栄のシナリオが描けるとも言われています。

もし既存の方法で使えるものがなかったら…。その時は方法=道具そのものを作り出そうというのが社会マネジメント・システム学の考え方です。従来の学問――とりわけ社会学などでは、方法論やモデルが先にあって、それにあてはまるフィールドを探し、手頃なデータを取り出して方法論やモデルを検証するという研究がしばしば行われてきました。

これに対し、現実の課題の方が先にあるからには、方法=道具の持ち合わせがないから解決できないでは済まされないというわけです。

ニーズと要素技術を統合するマネジメントの平面

事象の連鎖構造と、要素の間の定量的な関係が明らかになったところで、全体をひとつのモデルとして組み立てて、コンピュータ・シミュレーションを行います。どの要素をどういじれば最小のインプットで最終アウトプットを最大化し、なおかつ途中の廃棄物などを抑えることができるかなどを探ります。

そして、社会マネジメント・システム学の最大の特長は、こうして組み立てられたシステム――それはある時は制度や仕組みであったり、または機械と作業マニュアルの組み合わせであったり、あるいは文字通りのコンピュータ・システムであったりしますが――を実際の現場で運用して課題解決を果たすというところにあるのです。

もとより一度でうまくいくとは限りません。その時は、運用結果をさらに分析してシステムの改善につなげていくのです。
いわば、現場の課題を責任を持って引き受ける学問、それが社会マネジメント・システム学といえるでしょう。

 

芸西村の園芸ハウス群 多くは加温用に重油が使われているが、これを木質ペレットで代替する試みが行われている

芸西村の園芸ハウス群
多くは加温用に重油が使われているが、これを木質ペレットで代替する試みが行われている

 

ハウスではピーマンなどの高知を代表する野菜が生産されている

ハウスではピーマンなどの高知を代表する野菜が生産されている

 

ハウスに設置された加温用ボイラー 重油用の燃焼機をペレット用に置き換えることができる

ハウスに設置された加温用ボイラー
重油用の燃焼機をペレット用に置き換えることができる

 

木質ペレットのタンク ここから自動的にペレットが燃焼機に供給される

木質ペレットのタンク
ここから自動的にペレットが燃焼機に供給される