高知工科大学紀要 第18巻1号 2021.12.28 より

石川惠大, 大内田将爽, 大和敦子, 楠瀬 慶太
要約 本稿では、明治期に香美市佐岡地域に居住した中小地主・森田家の土地所有の変遷を探り、その土地利用や生業の復元を試みた。幕末から明治期における森田家の土地集積は段階に進んだというより、むしろ流動的であった。明治前期の制度的混乱を乗り切った森田家は、江戸期からの所有地周辺に土地を集積し生産基盤を整え、江戸期には基盤の薄かった地域にも進出し、地主化していった。明治後期には多くの土地を手放しており、中小地主から広域に土地を所有する大地主への飛躍はなかったようである。また、地券表記の小字を用いたアドレスマッチング方式により地券をGIS データ化して分析し、耕作地における土壌や河川との関係性を示すことができた。佐岡地域の里山の土地利用では、地価から田や草山の重要性が示され、森田家が宅地を拠点に耕地と山林を所有し、田畑の生産物と山資源を複合的に利用していたと推測した。さらに、明治期の地券の地価や面積を数値化するだけでなく、小字を用いてミクロな所有地を空間的に視覚化する手法は、村落内での土地利用や土地所有をより構造的に理解する方法論として重要であることも提起した。